イタリア菓子に魅了された野澤圭吾。スフォリアテッラを追求してナポリへ飛ぶ。
お菓子の世界に入り約20年の野澤圭吾パティシエは、イタリア菓子への思いは誰よりも熱い。大学生時代からお菓子屋さんでアルバイトを始め、地元のフランス菓子店で、6年ほど修行する。デコレーションケーキ、焼き菓子、釜焼き、など一通り学んだ後、「やっぱりどうしてもイタリアのお菓子をやりたい」と思い、自分のイタリア菓子への想いを確認するためにイタリアのフィレンツェに3ヶ月バックパックの旅に出た。
帰国後は、南青山のイタリア菓子専門店「ソルレヴァンテ」で3年間修行し、イタリア菓子「スフォリアテッラ」を学ぶために再度ナポリに飛ぶ。ナポリでは、気に入ったお菓子屋さんに声をかけて、厨房を見せてもらったり、研修させてもらったりしながら、1年間、イタリア各地を歩き回ったという。
お菓子屋さんやレストランだけでなく、イタリアの家庭でマンマの味(お母さんの味)にも触れた彼のイタリア菓子における執念と行動力は常軌を逸するものだ。
そんな彼のイタリア菓子への想いと今後の展望についてインタビューを行った。
■イタリア菓子に惹かれて
ーーパティシエになると決めたのはいつ頃でしたか?
パティシエになると決めたのは大学の卒業旅行でフィレンツェを訪れた時でした。日本で食べたことない味のお菓子を食べて、それがすごく美味しくて感動して。これを日本で作ってみたいと思ったんですよね。フィレンツェのリッチャレッリというアーモンドのソフトクッキーと、蜂蜜・ナッツ・ドライフルーツを煮詰めた円盤状の柔らかいヌガーみたいなお菓子を、濃いエスプレッソと一緒に食べるのが、フィレンツェでは一般的だそうで。お土産でイタリア菓子を買って、当時のバイト先のケーキ屋さんのシェフに聞いて、真似て作ってみていました。
大学卒業当時はまだ、日本でもイタリア菓子の専門店はなかったので、地元の小さなフランス菓子屋さんに行き、無理やり「お願いします、働かせてください」と頼み込んで働き始めました。
ーーフランス菓子とイタリア菓子は何が違うのでしょうか?
フランスはソース文化で、柔らかい生菓子を美味しく食べるために、生地が下に敷いてあり、粉物は添え物のような位置付けです。一方で、イタリア菓子は逆で生地を美味しく食べるために少しのクリームを添えるなど、小麦粉をメインで焼いて作るドルチェが多いんです。アーモンドを粉にしてそのまま焼くなどあまり手を加えないシンプルなものがイタリア菓子の特徴。初めて食べた時に、アーモンドそのものの素材の味が感じられるお菓子に衝撃を受けました。
ーー野澤さんからみたイタリア菓子・料理の魅力はなんですか?
素材を工夫して違う形にして再構築して食べるデザートよりも素材のシンプルなあまり手を加えない感じが好きです。料理だと、サルティンボッカという、サルシッチャとほうれん草みたいな葉っぱを炒めて、燻製したものを半分に切ったパニーニに挟んで食べるサンドイッチ見たいな料理があって、それがすごい好きです。地域によって同じ料理でも名前が違っていて。うちのはこれとこれが違うからパニーニじゃなくてサルティンボッカなんだと主張する。自分からしたら同じなんだけど、地元民からしたら全然違う食べ物らしいのです。笑 地元愛が強いんですよね。
ピッツァも本場はナポリですが、そこから車で1時間ほど南に行ったVico Equenseでは、丸いピザじゃなくて、ピッツァデトラという1mの長いピッツァをみんなで切り分けて食べる風習があるようです。
ピッツァが地方性が強いのと同じように、お菓子も各地域で全然違います。北の方が生クリームを使うお菓子が多く、ティラミス、パンナコッタなどが伝統菓子になります。南の方はバターなどの乳製品はあまり使わずラードを使用することが多いです。羊の乳を食べる文化で、羊の乳を使ったリコッタチーズをたくさん使ったお菓子が有名です。スフォリアテッラ、グラッパやカッサータなどが有名ですね。
ーー料理とデザートは違いますか?
イタリアドルチェは料理と深く関わっています。スパイスやハーブもドルチェに使うこともあるので、イタリアのドルチェをやるならイタリア料理も勉強しないとダメと言われています。僕も、前のお店ではキッチンでパスタや前菜もしていました。
■イタリア菓子・スフォリアテッラを学ぶ
ーーGITALIA入社前は、ナポリのお菓子屋さんでスフォリアテッラの修行をしていたとか。
南青山にあるイタリア菓子専門店のソルレヴァンテ(現在は閉店中)でずっとスフォリアテッラを作っていたんです。本物を見てみたいと思い、スフォリアテッラを学ぶためだけにナポリにいきました。今はナポリでも、スフォリアテッラを手作りしてるお店は少ないようですが、Vico Equenseという街にある、家族経営のような形で2人のシェフがやっている有名なお菓子屋さんで、作り方を教わりながら9ヶ月ほど働かせてもらいました。
ーースフォリアテッラとはどのようなお菓子でしょうか?
フランスでパイは、生地にバターを練り込んでいて層を作り、乳成分が入っているので、よりサクサクとした食感のお菓子である一方で、スフォリア生地は、バターにラードを巻いてロール状にくるくる巻いて伸ばして、薄い生地にして、焼くとバリバリとした固い食感になります。ラードがオーブンで溶けて揚げ焼きみたいな感じになるんです。
バターは昔は高級品だったので、イタリアではドーナツを揚げたり、ポテトやライスコロッケをあげたりするのも基本ラードを使用します。ラードは、味にコクが入るのと、よりカラッと揚がる。ちょっと硬い感じになり、脂の味も入ります。
ーーイタリア菓子を作るときの肝はなんでしょうか?
粉の使い方ですね。日本は粉の粒の大きさで分類しますが、イタリアでは小麦粉の挽き方で名前を変えています。その粉の種類によって、水や材料の分量を変えます。
パスタは日本だとスパゲッティーを想像する人が多いと思いますが、向こうでは、生地のことを全部パスタって言うんです。例えばクッキーの生地もパスタっていうらしいんです。スパゲッティもクッキーもスポンジも全部パスタ。だから料理もやらないと小麦粉の使い方もわからないと言われます。
■GITALIAでの役目
ーーGITALIAに入社したきっかけはなんですか?
最初はたまたまここに食べにきた時、お店を広げるから一緒にやらないかと誘われたのがきっかけです。都内の住宅地の中に畑がある街は珍しく、入社してすぐ練馬の色々な畑に連れて行ってもらって。練馬という街がすごく魅力的だな、と感じました。
ーー今後の展望を聞かせてください。
もっとみんなにとって、イタリアのお菓子が身近になればいいなと思うので、イタリアのお菓子を家庭でも作れるようにどんどん教えていきたいと思っています。家庭で作るには知らないと作らないので、お店で出したり、お土産として販売しながら、広げていけたらいいな。
料理やお菓子の作り方も含めて、自分が知っている知識をどんどん伝えていきながら、お店自体の成長に貢献したいですね。
お菓子以外の面で言うと、この店は、新しいことにどんどん挑戦するじゃないですか。その取り組みがいつも面白そうで、興味を持ってしまうんです。練馬に限らず、愛媛や長野や埼玉など、地域を盛り上げる取り組みがいろんなとこで並行して少しずつ進む感じが面白くて先を見てみたいと思うんですよね。飲食業に止まらず、農家や地域の周りを巻き込んでいく感じもどんどん次から次へ進むので、この後どうなるのか楽しみです。
■オーナー岩澤正和より
フェアリー(野澤圭吾)は熱い想いを持ってますよね。すごく頭の良い人だなあと思ってしまいます。心の底から良い人なんです。
職人は趣味の延長で、好きでないと美味しい物は伝わらないんです。
一方で趣味の領域にとどまっているだけでは、生活ができません。趣味の領域をビジネスと繋げて自分をマネジメントしていかないといけません。というのも、会社によっては金儲けの道具として扱われてしまうから。
夢を仕事にできる人はごく僅かです。地域と会社と自分自身にとって持続可能な関係を構築していくためには、プロ意識で実行することが大事。言葉だけではなく行動を示すことで、周りに『甘える力』ではなく『頼れる力』を自分の中から引き出せば未来は薔薇色です。
彼の周りにいる仲間は素晴らしい人財です。1番理解をしてくれている奥さんや、温かく見守ってくれてる家族への感謝を忘れないこと。完璧な人は世の中にはいないので、年下も含め敬意を表し、意地を張らずに弱みを共有すること。相手の立場に立って物事を考えていくこと。
そうすれば彼自身が地域やみんなにとっての財産になっていくでしょう。
■編集後記
普段は多くを語ることのない柔らかな物腰の野澤パティシエだが、イタリア菓子の話になると止まらない。イタリア菓子を学ぶためだけにイタリアへ飛んでしまうほど行動力に溢れている彼は、一途に好きなことを仕事にしている菓子職人だ。
オーナー岩澤が言うように、夢を仕事にできる人間はごくわずかだ。彼のイタリア菓子への熱い思いを知れば、彼の夢が詰まったスフォリアテッラを食べずにはいられないだろう。
ライター・撮影 / 井上美羽
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