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大胆な失敗を重ねてきた岩澤正和が見つけた飲食経営の答えとは。【後編】

2023.01.06

どのように50年続くお店を作るか、その秘訣がFILIPPOというお店に詰められている。今回は2022年12月15日で10周年を迎えたPIZZERIA GITALIA DA FILIPPOの軌跡を振り返りながら、オーナー岩澤正和が飲食経営について考えていることについて話を聞いた。

前編では、GITALIA立ち上げ期の苦悩や、あえて戦略的な数字を追わない経営について語ってもらったが、後編では、GITALIA開業の前に遡り、オーナー岩澤が歩んできた歴史をさらに深掘りしていく。

飲食店の社会的使命

ー 岩澤さんのその大胆さはどこからきたのでしょうか?前職の岩澤さんの上司であり恩師でもあるサルヴァトーレさんの存在も結構大きいのかなと思いますが、どうでしょうか?

そうですね。サルヴァトーレさんと、彼の右腕の山根さん・大西さんという方が俺にしてくれたことをそのままみんなにしているのかな。

サルヴァトーレさんは、自分に見返りを求めず評価してくれました。と同時に、我慢もさせられました。自分が23歳で店長として三軒茶屋の新店舗を任されたとき、給料は25万円。1店舗の利益を上げて毎月数千万の売上のお店を立ち上げて、世界最優秀賞のメンバーになって本当だったら給料上がってもいいと思ってたんだけど彼と会社は評価してくれなかった。

そのまま6号店くらいまで立ち上げもやらされて、めちゃくちゃな働き方もして、この人達狂ってんなと思って。でもとにかくここには何かあると信じてついていきました。笑

そのあと気づいたのですがあの方々は、社会的使命感を背負えるか背負えないかで、評価をしていたんです。

とりあえず働いてただ売り上げを作っているときは、評価をしてくれませんでした。当時は、「なんでこんなにやってるのに自分を見てくれないんだ、評価してくれないんだ」と、休みなしで寝ないで働いていた自分への被害妄想が強かったなと思います。多分同じ気持ちの人沢山いるんじゃないかな。

でも、オープニングを乗り越えて売り上げのベースを築いて、お客さんがたくさん来る、1日8時間で終わらない日があるのは、当たり前、飲食経営するなら、お客様のためにをライフスタイルにして、乗り越えなきゃいけない。

そんなときに詰め込んでやれる人間なのかやらない人間なのかで変わってくる。何のためにやっているのかというプロ意識を教えてもらったかな。時代が変わっても、美味しい料理を作るには時間がどうしても必要です。

それを理解したタイミングで、ドーンと給料を上げてきました。自分に本質的な力が身に付いたんでしょうね。そこを見てくれていたなんて。

飲食業だって社会的使命があるんです。例えば、クリスマス忙しいことや忙しい年末を乗り越えていくのが飲食業の社会的使命。未来を作ろうとか開業するとか、何か夢を現実にするんだったら、会社に守ってもらっているうちから、それを当たり前にするような意識でやらないとね。

自分自身がやりたいことのためにその壁をみんなで乗り越えられなかったら、その先の自分の長い人生も思うように生きていけないよ。

FILIPPO監修の匠のパスタ。日本の小麦と水を使用。

ライフスタイルを大事に

ー 2022年に入り、FILIPPOでは飲食個人店では珍しく週休2日制を導入して、スタッフの皆さんにも生活を充実させろとよくお話しされていますね。

仕事のために生きるんじゃなくて、生きるために仕事をする。最低限社会に貢献できるようなスキルは身につける。サルヴァトーレさんが、自力で生きる上での厳しさも教えてくれました。

プラス価値観を共有するうえでなるべく遊びも一緒に。

サルヴァトーレさんも、休みの日、一緒に遊びに行って、価値観を共にして見たことのない景色を見せてくれました。彼は、仕事だけではなくその周りの幸福度を見ていました。人を育てられるか、信じる力をもっているかが重要なんです。今になって振り返ると、すごくありがたい経験と一生の財産をもらったなと思います。

だから、飲食で働く人に言いたいのは、自分の生活を第一に考えろということです。仕事を忘れろということではなく、ライフスタイルにして楽しめたら最高だよ、ということ。お客さんとしてお店に行ったとき、その店の従業員の言葉につられて「いらっしゃいませ」ってつられて言っちゃいな。

それと、飲食業で働くなら絶対に自炊をできる環境が必要です。だから自分は昔も、どんだけボロくてもキッチンだけはちゃんと料理が作れる、必ずガスコンロの2口は最低あるアパートに住んでいました。やっぱり食に携わる人間が自分の飯ぐらい自分で作らないと。料理人になって飲食経営をしたいのに、家で自分の食べるものすらちゃんと考えられないような環境で生活をしていたら良い料理人になれるわけないでしょう。自分の家に来た友達なり家族を振る舞う練習はお客さんに出す前にするべきだと思います。

美味しいだけじゃ成り立たない

ー お店立ち上げの前のお話もきかせてください。

ちょっとさかのぼると、20歳くらいの時、栃木にある実家で義理の親父がレストランを2店舗経営していて、自分がそのうちの1店舗を預かって切り盛りをしていた時期がありました。

母親と2人で1年ぐらい続けて、すごく美味しい料理を作って行列もできてたんだけど、蓋を開けたら8万円しか利益がなくて。那須牛のハンバーグランチ、ライス・パン、サラダ、スープ、デザート、ドリンクもついて800円で出していたの。儲かるわけないよね。その時のお客さんに今でもお店やってよって言われます。

美味しいものだけ作っていても駄目なんだって学んだんです。「美味しいものを出してお客さんは喜んでいる」それだけだと絶対経営は成り立たない五感を最低限考えて。

ー 美味しいにプラスしたところってなにが大事なのでしょうか?

やっぱり生きていく上で最低限必要な価格設定をしなきゃいけません。死ぬほど働いて8万円を母親と分け合ってるような生活だと健康的な生活は送れません。最低限生活したり、家を建てたり、ライフスタイルの設計を立てられるように飲食業経営をやらないと。安い食材を探すのではなく本当にこの後にも繋げる生産者の素晴らしいものを安売りせずに広めること。

それを教えて実践させてくれたのは、サルヴァトーレさんでした。サルヴァトーレさんは仕事に対して厳しいけど、だれより一番料理人としてプライベートも楽しんでいます。周りがみんなかっこいいんです。自分のためではなく仲間を信じて、社会的価値があるからその対価をもらってるわけです。

裏切られることを恐れず人を信じて、時には失敗を機に勉強して。ずっと会社が守ってくれるわけではない世の中、人と街に支えられながら自力で生きる力を身につけ楽しむスキルを身につけないといけないんです。

ー フィリッポのメンバーの皆さんのことをみんな経営者だと言っているのは、ここからきているのですね。

みんなで一緒にずっといれたらそれはそれで楽しいんだけど、そうも言ってられないケースが人生の中には絶対に来るから。もし1人ぼっちになったときにも生きれるように、この力を皆に身につけてほしいです。

自分はもう1人になっても食っていける、家族を養っていくことはできる。だけど世の中にはできない人が圧倒的多数だから。少なからずここにいるメンバーたちが核になって自分の地元に戻ったとき、自分が新しく働くお店でちゃんと贅沢できるような生活を送れるようになってもらわないといけないんです。

うちの店で出している価格帯は、飲食業では強気の金額設定だとも言われるんだけど、金額には裏付けが必要でしょう。価格に対して社会的目的を持ってちゃんと活動できていれば、それに対しての評価をしてくれる人はたくさんいます。

なので生産者の努力を安売りをする気はありません。三方良しのスタンスです。2400円の強気の価格設定の背景には、ナポリの文化の素晴らしさや日本の素晴らしさをみんなに広める役目があります。これからの飲食ビジネスは、今の常識と向き合って、新しいワールドスタンダードを築いていくことだと思います。

悩み続けるのが仕事

ー 2年前、パンデミックの状況下で、商店街の空きテナントを2軒借りて、惣菜テイクアウトのお店「BACALLO」とお土産屋さん「FILIPPOマーケット」のオープンに踏み切りました。その背景にはどのようなことがあったのでしょうか。

ビジネスとして考えたら普通はやりません。でもね、みんなの顔を見ていたらやっちゃったんだ。大変なご時世のときに守りに入るのか、それとも進めるのか。この先、メンバーに同じようなことが起こった時のために、みんなの力で乗り越えられるような経験をさせてあげたかったんです。今20代のスタッフはこの先50年ぐらい飲食業をやるかもしれないでしょう。ベテラン組がまずは背中を見せて頑張っています。その時に閉じこもって何もできないような経営者にはなってほしくないからね。もうやっちゃえNISSANだよ。

ー やっちゃえNISSANですか。笑 悩みましたか?

ずっと悩んでいます。もう悩むのが仕事です。

お金と時間のためにお前の人生があるのかと。

ねーよ。

でもお金にまだとらわれてるよね。必要だよね。

もともとはお盆になったら米を収穫して、自分たちの食べ物を確保して、それで商売なり仕事をしながら生活していくのが日本人の当たり前の生活だった。今は、日本人、農業から離れちゃって、当たり前ともかけ離れすぎですよね。

大量生産・大量消費・大量廃棄に繋がってるような社会の中で、生活と仕事のバランスがすごくずれていて。じゃあ飲食業としてはどんな活動をして、どんな見せ方をして、何を伝えるかを改めて考えていかなければいけません。

土の中の微生物と同じように、大事なものって目に見えないんです。食べ物ができるまでの栄養素は目に見えません。目で見えるものばかりを大切にしようとして、目に見えない一番大切な部分がなくなっちゃっていませんか。

これからは目で見える数字ではなくて、目に見えないものの評価をしていかなきゃいけないと思います。

そして愛媛で先陣を切って過疎地域の課題と向き合っている細羽さん彦田さん等のメンバー達と住民の方々同じ価値観の沢山の方々に教えてもらいながら、ヒントをいただき今年自分たちは、練馬だけでなく、世界一のポテンシャルを持つ日本の地域蘇生、人蘇生、文化遺産蘇生、など「蘇生」というキーワードと向き合って食を通して最高のメンバー達と楽しんで未来を作っていきます。

GITALIA DA FILIPPOが店を構える石神井公園商店街

編集後記

彼の凄さは、人と比べて圧倒的に失敗し、後ろめたさを感じることなく失敗を失敗と認めていることだ。「パンデミックになって、自分の脳みそ以外の部分を使わなきゃ生きていけなかった」そう語る彼は失敗を怖いものと思っていないからこそ、自分の頭で考えられないことを理解し、あえて失敗を回避しようとしない。自分以上に周りの人たちとその可能性を一度信じ、挑戦をし続けるのだ。

ライター・撮影 / 井上美羽

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▷▶︎pizzaiwasawa@yahoo.co.jp (岩澤正和)

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