バリスタからピッツァ職人に転身した江口弘展。地元新潟に還元するために。
今回インタビューを行ったのは、新潟県十日町市出身の江口弘展(えぐちひろのぶ)さん(36)。一人前のピッツァイオーロ(ピッツァ職人)を目指してFILIPPOで働く彼は、地元新潟に対する熱い思いを持っている。
カフェプロデュースの専門学校を卒業後イタリア老舗エスプレッソブランドのチェーンで店舗マネージャーまで昇進していた彼が、突然バリスタの世界を辞めてピッツァイオーロ(ピッツァ職人)を目指すようになった訳とは・・・!?
■バリスタに憧れて
ー ピッツァ職人を目指す前はどのようなことをしていましたか?
高校卒業時、大学に進学してまで勉強したいことがなかったんです。ただ就職する気持ちもなくて。
興味あることを考えた時に「サッカー」「音楽」の他に「食」が思い浮かびました。
当時個人がカフェを開業するブームがあって、自分が好きな空間の中で自分の好きな音楽で食事や飲み物を提供して喜んでもらえるのがいいなと思いました。
それが飲食に足を踏み入れた原点になっています。
自分でカフェを開業するノウハウを学ぶため、雑誌でみつけたカフェプロデュースの専門学校にいくことに決め、内装や、インテリア、栄養学専門など、料理以外のことも学びました。
ー カフェはどのような点が魅力だったのですか?
当時は漠然とかっこいいカフェをやりたかったんです。一番興味を持ったのは、エスプレッソマシーン。
エスプレッソマシーンを使いこなすバリスタをみて、所作や表情など、コーヒー1杯入れる動きがかっこいいと思ったんですよね。
専門学校を卒業後はバリスタを目指してイタリア老舗エスプレッソブランドのチェーン店に就職し、経営のノウハウやマネジメントも学びながら6年程働きました。
大きい会社なのでこのままいくと安定した生活ができる環境はありました。
ただ自分はこのままエリアマネージャーになるよりも、現場でお客さんを目の前に仕事がしたいと思うようになりました。
■バリスタに似ているピッツァ職人
ー バリスタから、なぜピッツァの道に入ったのですか?
当時働いていた店舗近くのピッツェリアにたまたま行った時、めちゃくちゃ美味しくて。それまでのピッツァのイメージは薄くてちょっとカリカリしていて色々トッピングがのったものだったのですが、その概念が覆されました。
美味しいのに、シンプル。
粉があって、薪があって、それを使いこなしていくピッツァイオーロ(ピッツァ職人)はバリスタと似ているところがあって、次第に心が惹かれていきました。
コーヒー以外にも自分の武器が欲しいと思い、ピッツァの道に挑戦することにしました。
ただいきなり初心者が有名な個人店のピッツェリアに入ってもピッツァに触れられるチャンスはほとんどないので、まずは店舗を多く展開している都内のピッツェリアに入りました。
ー FILIPPOで働き始めたきっかけは?
将来自分が地元で飲食店をやることを考えると、もう少し地域に寄り添ったお店が良いと思っていて。
FILIPPOは当時からピッツァ業界の中でも有名店でした。食べに来た時は「こんな商店街の真ん中にあるんだ!」と驚いたと同時に地産地消や商店街を盛り上げたいという思いで経営しているこの店が自分の理想に近いと感じました。
この店で社長と近い距離で働かせてもらえるのであればサービスからでも働きたいと思い、この会社に入社しました。
ー 働いて、仕事の状況はどのように変化しましたか?
毎日刺激的でしたね。実質4年程サービスをやっていて、その間は料理は自分で勉強して、ようやく1年前の夏からピッツァを本格的にやらせてもらえるようになりました。
ピッツァをやりたくて入ったのに、最初は全くピッツァに触らせてもらえないので普通だったら途中で嫌になっちゃうだろうけど。
それでもいいと思えるくらい岩澤オーナーの人柄やお店の取り組みのインパクトが自分にとっては大きかったんです。
■地域の活動が輪を広げていく
―FILIPPOは江口さんからみてどんなお店なのでしょう?
飲食店は美味しい料理を作ってお客さんに満足してもらってということが大事ですよね。それは基本中の基本なんですが、FILIPPOは常に練馬区や石神井の商店街のことを第一に考えていました。地域のために活動していくと自然に仲間が増えていくんですよね。異業種の人たちが集まってきてそれがまた輪を広げていく。
そうすると必然的にお店に人が集まってきて、潤っていくというか忙しくなるんですね、勝手に。
「ただうまい料理作っているからこいよ」というスタンスじゃなくて、いろんな協力者を増やしているのがすごいなって。このお店の経営の仕方がすごく勉強になりました。
ピッツァやりたいという思いもありましたが、ここではそれ以上に学ぶことがあります。
美味しいだけじゃない。結局一人でやれることは限界があるし、色々な協力者を得ながら応援してもらいながらお店をやっていくのってすごく楽しいんですよね。
集まってくる人々はそれぞれ得意分野やアプローチが違うだけで、地域を盛り上げたいという思いが一緒。自分の中ではその武器として飲食だったんです。
やはり地域をどうにかするためにはある一定の美味しいものを作れないと話にならないので、そこはまず突き詰めてやっていきたいですね。
■地元に還元したい
― 今は地元に対して、どのような思いを抱いているのでしょうか?
自分が育った場所は新潟県の十日町市という小さなまちで、コシヒカリや着物、日本酒が有名な町ですが、過疎化も進み、寂しくなっていっているのが現実です。
自然の中にある自分の実家は、畑や田んぼを持っています。おばあちゃんが畑から採ってくる野菜が当たり前のように食卓に並べられていましたが、それって今思うとすごくありがたいことで。
自分がたまたま地方で生まれたことには何か意味があるのだと思います。だから地方の課題は他人事ではないんです。今はどんどん都会に人が移動していて地方の人が少なくなっていく中で、過疎化の状況を見て見ぬふりをするのは心苦しい。自分がしてきたことで、なにか地元に対して貢献したいです。
―FILIPPOで働くことの魅力はどんなことだと思いますか?
違うジャンルの人と繋がれて飲食以外のことが学べることですね。普通のお店はできない経験をさせてもらえます。通常の会社であれば社長だけが把握していることでも、ここでは従業員みんな理解しよう、という方針です。生産者に会いに行きたいといえば行かせてもらえる環境もあります。
またここで働くメンバーはファミリーです。みんな熱いからこそぶつかることもありますが、自分がこの店を辞めたとしてもそれ以降も繋がっている人たちだと思います。大変な時はお互い助け合える土壌があります。
―江口さんにとって、飲食で働くことのモチベーションはどこにあるのですか?
飲食で働くって、サッカーと似ているんですよね。どうやって攻めてどうやって守るかに近い感覚もあって。
営業中も個人プレーではなくチームワークが問われます。
自分のポジションはあるけれど自分の仕事だけやっているのはお店として回らないし、誰かが困っていたらそこをフォローしなきゃいけないし、今どこがどうなっているかなど色々なところに目を向けてサポートし合っていく。
大学を卒業して世界を変えたいと考える人たちは、今だとITやデザイン業界などに進む人が多いですよね。大学卒業後の就職先の選択肢として飲食業が入ってくることは少ない。
日本の将来を変えたいという高い志を持つ人たちのアプローチの一つとして飲食業も入るようになったら、最高ですね。
■番外編ー岩澤正和オーナーからのメッセージ
江口は取引先の業者さんや地域の人たち、関わりのある人全員から信頼を作り上げた、店の中でも1番バランスの良い人財です。
彼はこれまでも多くの我慢を乗り越え甘えることなく、文句や愚痴を出す前に手を動かしてきた。ひたむきに頑張れば間違いなく成長することができるお手本を自ら体現しています。
そんな彼の姿を若手や新人はみんな見ています。
江口を見習い真似て彼の伸び代を体験すれば、スタッフや地域の経営者との信頼も自ずと生まれていきます。
ただ彼の1番の欠点は自分の可能性に気づけない頑固さかな。
自分は数年前から彼の名刺の肩書きに副社長と勝手に入れていますが、きっと彼は副社長としての自覚はないでしょう。冗談だと思っているかもしれないし、めんどくさい肩書きだと思っているかもしれません。
責任を背負ってしまえば、自分の夢の故郷での独立が遠回りになると思っている。
逆です。本記事を読んでいる経営者にはわかるはず。
独立前に自覚と実績を作り責任を背負い、副社長としてのスキルを身につけられれば、自分の店を構えた時に「いきなり社長」にならずに済むのです。
単純に彼は頑固さで損をしている。チャンスとスキルがあるのに「今じゃない、後で見よう」と思っている時間がもったいない。
まだまだ知らない予想も出来ない景色が待っているのにね。
■編集後記
彼の中にある一つの軸は地元新潟を大切にする思いだった。地元を支えられるだけの力を蓄えるために、料理に限らず多くのスキルを身につけ、ひたむきに修行を続ける。
岩澤さんは、彼のことを「1人の夢をみんなの夢にできる力を持っている人財」だと表現する。
彼をよく知る人は「本当は、彼がこの会社のコアである事には彼以外みんな気が付いている」という岩澤さんの言葉に深く頷くのだろう。
ライター/井上美羽
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