大胆な失敗を重ねてきた岩澤正和が見つけた飲食店経営の答えとは。【前編】
「お金と時間のためにお前の人生があるのか。」ーーー「ねーよ。」
と断言する岩澤の2文字の返事の裏には、過去の多くの失敗と、そこから多くの学びを得て成功してきた彼の分厚い歴史がある。
石神井公園商店街で毎月スタッフや商店街の人々と街の掃除をしたり、牛乳パックの回収を商店街を巻き込んで行ったり、コロナ禍には医療従事者応援の弁当販売、農業福祉連携活動の一環として技術指導、福祉雇用への協力を行ったり、地元駅で産直マーケットを開き、出店者さんの売上がこれまでの7倍になるようなサポートをしたり、この3年間の間でも多くの活動を行ってきたFILIPPO。地元を愛し、地元に愛されるこの店は、この先も50年続くと確信を持てる名店だ。
そして飲食店経営に止まらないオーナー岩澤の度を超えた、幾度とない大胆なチャレンジに圧倒されない人はいないだろう。
それほどまでにパワーがあり人を惹きつける魅力を兼ね備えた彼のエネルギーの源泉は何か。2時間のインタビューを経て思うに、それは彼の失敗経験の豊富さと、失敗を確実に学びとして踏み台にするプラス思考にあるのかもしれない。
どのように50年続くお店を作るか、その秘訣がFILIPPOというお店に詰められている。今回は2022年12月25日で10周年を迎えたPIZZERIA GITALIA DA FILIPPOの軌跡を振り返りながら、オーナー岩澤正和が飲食経営について考えていることについて話を聞いた。飲食で働く人、お店を持ちたいと考えている人、経営に悩む人に、読んでもらいたい。
FILIPPO立ち上げ期の挫折と学び
ー 立ち上げ当時のお話をきかせてください。
最初は3人で始めて、他に2人共同経営者がいたのですが、3年目にひとりぼっちになりました。2人は料理長とホールマネージャー。自分は代表として、始めの3年間はビジネスベースで考えて数字を求めてお金をどう分配していくかっていうことに対して力を使っていたんですよね。
仕事の分配も初めから設計できたらいいんだけど。自分任せになっていて、揉めた時に2人がでていくことになりました。2人にその3年間の利益は渡して、そのお金も借金して。だから最初の3年間はただ借金をしただけ。それがまず勉強でした。その時が一番辛かったかな。1人になったけど、そのタイミングで自分が切り替わったんだよね。
そんな時に助けてくれたのが今2号店の野間です。ゴタゴタの中にひとり、研修生みたいな感じでいて、手伝ってくれて。そうしているうちに今のメンバーが少しずつ入ってきました。
ー 立ち上げ期の3年で学んだことはどんなことだったのでしょうか。
お金よりも大切なものがあるということかな。その3年間は15坪の小さい店で、毎月数十万の利益が出て、多分過去で一番儲かったんじゃないかな。空席の時間がないようなお店で一番効率が良かった。でもね、そういうビジネスをやってると結局長続きしないし、自分が疲弊していくだけなんだよね。
当時は数字のために、お金のために仕事をしていました。でもそうではなくて、自分たちの生活のために仕事があって、生活のバランスをとっていかないといけなくて。
それ以降、出た利益はほとんど全て投資に回すようにしました。どんな投資なのかというと、地域への投資。
今もビジネスとして考えたら、ここまで人はいりません。お金儲けのためであればメニュー数を減らしたり、効率化して少ない人数でまわせる設計をしたりしてビジネスをしていました。
でも今はギリギリのラインまで人件費を使って時には赤字になってでも、みんなを信じることでこの数字を打開していくようにしています。
任せることに対して、よく平気だねと言われるのですが、結局長期でみたら返ってくるんです。メンバーを信用することができるかできないかは経営者にとって大きな違いです。リスクばっかり考えても何も進まないので、どんどん任せた方がいい。
まだまだ経験も知識も足りてないメンバーでも、それぞれがちゃんと考えて行動に起こします。そうすると自分が考えてる以上の結果を出してくるんですよね。
あえて戦略的な数字は考えない
ー 10年前は今のお店経営のやり方と違うのでしょうか。
全然、180度ちがう。もう400度超えちゃったんじゃないかなくらい。10年前は数値ベースの飲食ビジネスをしていました。売り上げに対して、こういう集客をして、客数は何人で、単価はいくらでやって・・・。原価率と人件費の数字から掘り下げて経営をしていました。でも、数字から掘り下げるというのは、自分の今考えてる脳みその範囲内で仕事をするっていうことなんです。
自分自身が腑に落ちてるものだけしかできない。
パンデミックになって、経営も成り立たなかったでしょう。自分の脳みそ以外の部分を使わなきゃ生きていけなかった。毎日悩み続けるしかなかったんです。
でもうちはその状況をプラスに考えて。それだけ考えさせてもらった3年間があったからこそ、これまでと同じように飲食業をやっていても、通用しないということがわかりました。
10年前の飲食ビジネスの方程式がもう今の世の中に通用しないことは、働いてるメンバーもわかっていると思います。
本来飲食業は戦略的に数字を考えなきゃいけませんが、今は一切考えていないです。
というのも、自分たちの知識に対して経験と技術がまだ伴っていません。今は現状を受け止めて自分たちのサービスなり料理を作ることで精一杯。だから、日々の売り上げの計算はもちろんしますが、あえて戦略的に数字を追いかけないようにメンバーにも言っています。
売上目標っていうのは設計して建てるもんじゃなくて結果でしょう。
まだ技術課題がたくさん見えてる中で今数字を追いかけるよりも、みんなが成長したと同時に数字はついてくるように切り替えてあげたいなと思います。
後編>>飲食店の社会的使命とは・・・「あの人は、社会的使命感を背負えるか背負えないかで、給料を変えていたんです」
ライター・撮影/ 井上美羽
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