『自分には料理しかできない』GTALIA総料理長、野間裕介の料理人根性と武蔵関の店作りへの挑戦。
GTALIAが創業して間もなく、岩澤と伴走しながら店を支え、総料理長として料理のクオリティーを担保してきたのは野間裕介さんだ。
2018年、FILIPPOを離れ、武蔵関に開店した2号店「OPPLA! DA GTALIA(オップラ!ダ ジターリア)」の料理長となった。彼の存在が、GTALIAの厨房で切磋琢磨するFILIPPOの料理人たちの料理魂を燻っていると言っても過言ではないだろう。料理人が憧れる料理人、野間裕介さんの普段は語られることのない料理人としての半生を聞いた。
自分が知っているイタリア料理は「本物」なのか?
料理の道を目指そうと熱く志したというよりも、必然的に料理人への道に進んでいたという野間裕介さん。卒業後は六本木や麻布という街レストランへの憧れから、大手企業のイタリアン レストランに4年ほど就職。真面目で誠実な彼は、当時から常に目の前にある料理に疑問を持ち、「本物」を追求し続けていた。
ーいつから料理人になろうと決めたのですか?
「家も両親共働きで、夜ご飯はほとんど自分で作っていたので、料理はこどもの時からなんとなく好きでした。高校卒業する時、働き出すことに実感が湧かず、そのまま調理師専門学校に一年通うことにしました」
新卒入社したイタリアンレストランでも、働きながら『イタリアンとは』をなんとなく知っていくと、今いるところは本当のイタリア料理ではないように思えてきたという。一からイタリア料理をやりたいと思い、恵比寿の老舗「DELIZIOSO ITALIA(デリツィオーゾイタリア)」に転職。
「僕はそこでゼロスタートだと思いました。調理師専門学校卒業後、レストランの厨房で4年間働いていたのでそれなりに料理を作れる自信はあったんです。でも、初日に賄いを作って出したら、みんな一口だけ食べてどっかいってしまったんです」
「シェフも厳しく、厨房内でもとっくみあいの世界。だけどイタリア料理の美味しさには説得力がありました。みんなイタリアが好きでイタリア料理を作って、楽しそうに喋って、イタリアのことしか考えていないスタッフの様子をみて、このお店は本物だと思いました。その人がつくる料理が僕が最初に出会ったイタリア料理でした」
美味しいイタリアンxピッツァを追求し続ける
ーイタリア料理人とピッツァ職人はちがう領域でもあると聞きますが、どちらがベースですか?
「僕は、イタリアンもピッツァも分けて考えたことはなくて、ピッツァもイタリア料理の中の一つです。どっちかだけじゃ絶対ダメで、どっちもやりたかった。ただ、イタリア・ナポリピッツァのプロの世界があり、その世界でいうと、当時のうちの店のピッツァって評価されていなかったんです。そして名古屋の名店、「チェザリ」のピッツァを食べて、本物を知りました」
「ナポリピッツァは美味しいし、ピッツァイオーロはかっこいいし、もっと知りたいと思いました。次に務めたのが、ナポリ人のオーナーシェフの神谷町のお店「ピッツェリア ダ ペッペ ナポリスタカ(Pizzeria da peppe NAPOLI STA’CA”」です。Peppeと共に働くことでイタリア本場の雰囲気やイタリア人の考えに触れ、ピッツァに対する向き合い方を学びました」
「ベースがない」からこそ強みになる
得意料理はなんですか、と聞くと「なんでも出せます!」と勢いよく答える野間さんは、生粋の料理人だ。
家族の事情と重なりイタリア本場に行って修行をする機会を逃した彼は、本場でイタリア料理を学んだことがないという劣等感があったという。しかしそれを逆手に、イタリア各地域のバックボーンを気にせずに自由に料理をすることができる。そして今は、それこそが彼にとっての強みとなっている。
「イタリア郷土料理は大事にしているけど、それを自分なりにアレンジをしても誰からも文句は言われないから、自由に作ることができるんです。今はそれが心地よくて、むしろよかったなと思っています。地元の食材や、食だけでなく、お客さんや生産者さんとの会話の中、日常からいろんなところからヒントをもらって、柔軟に組み合わせています」
イタリアの郷土料理をつくることがベースではなく、イタリアンにこだわりすぎず、武蔵関のお野菜や、地域を巡る中で出会った食材をベースに、料理を出すことを意識しているという。「お寿司屋さん、中華料理、などいろんなところにヒントがあるし、どこでチャンスが訪れるかわからないので、興味や行動を広げていくと良いですね」と彼は話す。
美味しいを精密にレシピに落とし込む
ー美味しい料理を作るために大事なことはなんですか?
「『教わったことをやるだけでは自分の料理にならない』と若手スタッフに教えています。レシピをコピーして出し続けることが正解とは限りません。教えてもらったレシピを掘り下げて考え、自分のものにするために、微調整をすること。将来の自分の商売の武器にする。考えた結果そのままならばそのままでいいと思います」
「僕は今までレシピをもらったことはないから、何もない中で思い出して、食べた記憶をたどりながら、自分で作りながらその記憶に近づけていきます。砂糖、塩、なども数gずつ微調整して、レシピに落としています。もちろん、レシピは教えるけれど、人から教わったレシピをその通り作れば美味しくつくれるようになるわけではありません。最後は自分の力で教わったことを取捨選択し、どこまでオリジナリティや個性を出すことができるか。まずは自分のアイディアを浮かべる癖をつけることが大事だと思います」
自分のライフスタイルと仕事も、無理なく生きていける
ーFILIPPOで働くようになったきっかけを教えてください
「岩澤とは、ナポリピッツァ職人ネットワークで出会いました。当時の岩澤は独立前でまだ無名でお店もまだ開業前だったのですが、すこし話しただけで「素敵な人だ」という印象が強く残っていました。その後、たまたま家から近い石神井にお店を出したということで食べに行くと、ピッツァもめちゃくちゃ美味しかった。当時の自分は昼も夜もピッツァばっかり食べていたのですが、今まで食べた中で一番美味しいと思いました」
「家族でFILIPPOに頻繁に食べにいくようになり、もっとピッツァの世界で活躍したい想いが強くなっていったんですよね。一時的にFILIPPOで働くようになり、営業日はひたすら生地を練り、休みの日も、農家や畑に行ったり、四六時中岩澤と行動と共に過ごす中で、FILIPPOの魅力にどんどん引き込まれていきました」
「今思うと、当時岩澤は僕に、今後自分でお店をオープンして1人責任者としてやるにあたって、何をするべきかを考えてやらせてくれていたんだと思います。そのうちに、ここであれば、自分のライフスタイルも仕事も、無理なく生きていける、と思うようになりました。これまで職場まで1時間かけて電車通勤していましたが、お店が家の近くだったことも大きかったです。畑や生産現場など、自分が今まで知らなかった世界を知りながら料理ができることが何よりも居心地がよかったのかもしれません」
僕には料理しかできない
「今年で6年目になり、やっと文句言われない店作りができるようになりました」
と和らいだ笑顔を見せて言う言葉の裏にはたくさんの苦悩と努力があったのだろう。
ーオップラ!ダ ジターリアのオープンが決まった経緯を教えてください
「岩澤は、最初は店舗展開するつもりはないけど、『野間さんが責任持って、その先に自分でそのお店を買い取る自信があるなら、独立支援という形でお店を出してみる?』と聞かれたんです。でも、オップラ!ダ ジターリアがオープンする時は正直、一番きつかった。オープンが決まってから、岩澤からは、俺のこと憎いのかな?と思うくらい突き放されて。でも自分が料理長をやると言って始めたことだからとにかく向き合いました」
「最初はプレッシャーもすごいし、売り上げもなかなかたたなくて、数字のことをちくちく言われていて、それが憂鬱で・・・。でも何ができるかって僕には料理しかできない。美味しいものを作ってお客さんに食べてもらうことしかできなかった」
「岩澤みたいに周りを巻き込んで行くこともできないし、本当にただ料理をしてただけ。FILIPPOはライバルではないけど、料理人として負けたくない。FILIPPOより美味しいと言われたいし、『野間に負けたくない』と思われたいし、お互いに切磋琢磨しあう存在でいたいと思っています」
こどもがはしゃげる店作り
オップラ!ダジターリアは、こどもたちが窓ガラスをベタベタして覗いたり、厨房内にも入っていったり、レストランでは珍しく、こどもたちが楽しそうなレストランだ。夏休みや春休みの長期休みの期間、営業がお休みの日に1日限定で開催する「こどものピッツァ体験教室」は毎回満員で大人気だ。
ー「こども」は店作りにおいて大事なキーワードですね?
「石神井エリアには、こどもがたくさんいます。自己体験として、家族を連れてこどもが遊び回れる良い価格帯の店はあまりなくて、「自分のこどもも楽しめる店にしたい」というのが最初から大事にしてきたコンセプトです。「こどもピッツァ体験教室」も、食育って大きなことやるっていうよりも、休みの日に僕らが気楽にやりたいと思って続けています。小さな原体験が将来、料理いいなって思ってもらえるきっかけになったらいいな、と思います」
ー今後の展望を教えてください。
「GTALIAを離れる準備はまだできていないし、まだ道半ばだけど、今は視野が広がってきて、仕事も充実していると思います。僕は、多分、有名になりたいとか、評価されたいとか、名声欲が全くなくて、店に来てくれている人たちが、ここが一番って言ってくれる。それだけで満足しちゃうんです。影武者でいいし、今が一番良いなと思っています」
オーナー岩澤正和より
野間は、礼節も大切にしてくれていて信用のできる人間であり、優れた料理人です。
若い時からかなりの我慢と苦労をしていて、そこで得たものをちゃんと身につけている。それは、料理を食べたらわかります。皿の上の料理には、過去の努力を隠すことができないほどわかりやすく表現されてしまっているから。
会った時は料理人としてはまだまだで、「料理好きが作る料理」だったけど、数をこなせばちゃんと美味しい料理を作れることを証明してくれました。自分よりイタリア料理を勉強していて、個性も出せる。彼には師匠はいらないんです。根本の考え方さえ共有すれば、必ずお客さんの事を考えて、自分の料理にプライドと責任を持って作ってくれるから。
こういった料理人達を活かせる経営者になろうと決心させてくれたのも、彼の存在が大きかったかな。今や、兄弟よりも信頼しています。
でも、優れた料理人はその分欠けてる部分があります。自分で切り盛りする店を持つと、これまで周りがカバーしていた部分にも甘えられなくなります。普段はいい奴なんですが愛情がある分、血の気が強いので仕事中気を抜くと危ないです。でも、彼の横にいれば必ずいい職人になれます。若手は気合いを入れて頑張りましょう。
野間は周りの方々に支えられて小さな幸せを大きな幸せに変えられる力を持ってます。今で満足せず子供に正しい食を、職をつなぐ上でも背中を見せてあげてほしい。
数年経ってやっと経営者の気持ちもわかり、自分でお店をコントロールできるようになってきました。そろそろ前に出てもらって、私が影武者になる日も遠くはないですね。
飲食業の社会的ポジションを上げて、世界のお手本になれるよう、一緒に頑張りましょう。
これからもよろしく。
ー岩澤正和
取材・撮影・執筆/井上美羽
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